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教材型1 「ことばにしたい!」「書けた!」が生まれる: 「今日のトコトントコトン」
「いい作文」より、まずは「ことばにしたい!」から
一つのことを「トコトン」考え、何を書いてもOKという気軽さと安心感の中で
子どもの興味・強みを共に発見し、書く意欲を育む教材

キーワード
#小2~大学生まで
#毎日・毎回・少しずつ
#思いつきをことばに
#「いい作文」を目指さない
#紙面上で対話
#意外な一面を発見

教材1分紹介
「
書くことがない」「
何を
書いたらいいか
分からない」「
書きたくない」
――
書く
活動で
子どもたちからよく
出てくる
消極的・
否定的な
三大「ない」。
それでも
自分のなりたい
姿に「
書く」ことが
必要な
子ども、
将来は
漠然としているけれど「
書く」ことを
求められる
子ども、
書くのが
上手になればいいのにとなんとなく
思っている
子ども。
そんな
子どもたちに、
「書く」を「気軽に」取り組める「日々の活動」として
届け、
書くことに
対する
抵抗感を
減らせないか――そんなときに
出合った
市販教材『1日ひとつのことだけ日記』(宮川俊彦著)を
複言語・
複文化の
子どもたちに
合わせてアレンジしたのがこの
教材「
今日のトコトントコトン」です。
「
今日のトコトントコトン」は、
一つのことをじっくり
考え、ことばにする
日々の
小さな
書く
活動です。「いい
作文」や「
評価する
読み
手」が
前提にありません。
各ワークシートにはたった
一つのことに
焦点化したトピック。そこに
添えられた
実践者(
教師)からのメッセージやイラストをきっかけに、その
世界をトコトンみつめることから
始まります。あとは、
独り言のような気軽さで何をどんなふうに書いてもOK。
目の
前の
子どもたちに
合わせた
紙上の
語りかけで、
彼らの
物の
見方や
思考、
当たり
前を
刺激し、
「ことばにしたい!」を引き出したいと
思っています。
大切にしているのは、まずは
自分の
思いつきをことばにすること。そして、
何を
書いても
受け
止めてくれる
実践者(
教師)からエンパワメントな
返事をもらうことで、「
自分のことばが
届いた」「ことばを
使えば
伝えることができる」という
喜びに
気づく。それは
子ども
自身や
実践者にとっても、
子どもの
意外な
一面の
発見につながります。そして、このサイクルを
通して、「
書くって
実は
楽しいかも?」「また
書きたい」という
気持ちが
芽生え、
三大「ない」を
少しずつ
溶かして、
子どもたちの
書く
意欲へとつながっていくことを
願っています。
この教材の特徴は?
• 伸ばしたいのは「意欲」!「いい作文」かどうかは気にしない!
書くことが苦手と感じる理由の一つは「いい作文」を気にするからではないでしょうか。この教材は、技術面で褒めてもらえる「いい作文」は目指しません。「書く」の初めの第一歩である「ことばにしたい」「伝えたい」意欲を引き出すことをめざしています。
• 子どもの意外な一面や強みが見える ――成長をサポートするヒント
子どもたちが一つのことを深く考える過程で、いつもは見せない/見えない一面や考え方、性格などが垣間見えることがあります。そこから子ども一人一人の強みを見つけ、頑張りポイントや成長ポイントの応援につなげたいと思っています。
• 短時間で気軽に取り組める
授業のウォーミングアップやすきま時間など短い時間に取り組めます。初めはていねいに取り組みますが、慣れてくると5分ぐらいで終わる子どももいます。一人でできるリズムができると、ミニ宿題としても活用できます。
• マンネリ化せずいつも新鮮!
毎日(毎回)トピックが異なるため、同じことを繰り返し書くという「作業」を回避でき、いつも新しい気持ちで向き合うことができます。
• 子どもに合わせてアレンジ自由自在!汎用性・応用性が高い!
トピックは無限に作成でき、それに付随するメッセージも目の前の子どもに合わせて内容、語彙、表現、文体を調整できます。自分一人でもわかる安心感を大切にしながらも、子どもが少しだけ背伸びをすることで新しい表現や考え方に手が届くよう、その子に合った足場かけをする。考えを深めるための難易度を、実践者が自由に設定することが可能な教材です。
どんな子ども?
| 年齢 |
小学2年生~大学生 |
| 人数 |
個人(→グループや親子などでも可) |
| 経験・知識 |
特に条件なし |
| 日本語力の目安 |
- 仮名の読み書きができる
- 日常生活のやりとりがある程度日本語でできる
|
目標は?
| 目的 |
身近な事柄に意識を向け、いろいろな見方やことばを体験したり、ことばを使えば誰かに伝えることができるという、ことばのもつ力を感じたりすることで、書くことに対する抵抗感を減らす。 |
| 目標 |
- 毎日(定期的に)書くことを通して、自分から「書く」ことを楽しめるようになる
- 普段は意識しない身の回りの事に注意を向け、感じたことをことばにする(→高学年以上:そうすることで自分の中にあるものや興味・関心に気づく)
- 一つの事にフォーカスし、様々な角度から観察したり考えたりする(→高学年以上:そうすることで一つのことにも多様な見方や捉え方があることに気づく)
|
言語面の 目標 |
- 「わからない」も含め、見つけたことや感じたことを言語化する
- 表現の微細な違いや類義語には意味の違いがあることを知る
- いろいろな語彙・表現に触れることで、言語に対する感覚を磨く
|
主な活動と時間のめやす
【
時間】10~15
分/
回
【
主な
活動】
① トピックを
知る(+
付随する
実践者からのメッセージを
読む)
②
思いついたことや
言いたいことを、
子どもが
自由に
書き
込む
(※
初めはていねいに、
慣れると5
分程度)
③
実践者からの
返事
詳しいプランはこちら(■教案)
子どもたちの学びの記録の残し方
子どもたちが書いたものそのものが学びの記録
- 書いたものだけでなく、書かなかったものも含め、そのままが学びの足跡です。
- 1か月や1年などある一定期間分をまとめて冊子にすると自分だけの文集ができあがります。
- 同じトピックに1年後の同時期に取り組んだり、機会に合わせてある期間内に何度か向き合ったりすると、変わったことと変わらなかったことも見えてきます。
- まとめの時間を作るとしたら、一定期間後に一緒に読み返し、子ども自身がどう思うかを大切にします(そのうえで、実践者も子どものすてきな点を伝えます)。
<
注意点>
-
作文の技術に関する評価はしていません
子どもの書いたものをそのまま受け止め、書くことに関して伸ばしてあげたい強みがあれば日々の活動や会話の中で伝えています。
-
実践者以外に見せるときは子どもたちの了解を必ず取っています
保護者も含め、他の子や先生など実践者以外の人に紹介する可能性がある場合は、子どもとの信頼関係継続のために必ず(できれば事前に)子どもに確認をしています。
こんな子どもの姿が見られました!
トコトン考えて踏み出すそれぞれの第一歩 ―自由と安心感の中で―
初めは「
自由に
書いていい」ということに
戸惑いを
見せる
子どももいます。しかし、
本当に
何を
書いても
否定されない、
間違いを
直さなくてもいい、「いい
作文」である
必要はないのだと
分かると、
子どもたちは
楽しそうに
取り
組み
始めます。
特に、
書くことに
苦手意識があった
子が、
問いかけやサポートなしで
自力で
一文書き
上げたときの、
満足そうな
表情は
忘れられません。
また、「もっと続けたい」と思うようになる子どもも多いです。そう思うポイントは子どもによって様々です。今まで意識したことがなかったことを考えることに楽しみを見出している、実践者との交換日記感覚で楽しんでいる、実践者がどんな反応をするのかを待っている、「自分だけの冊子」が増えていくことへの喜びと達成感などです。1年以上続けた子どもは、以前に同じトピックで書いた作品と比べて、変わった自分・変わっていない自分を面白がっています。5年間も続け、自分の成長をトコトン楽しんだ子どももいました。
一方で、考えることが苦手で、「やりたくない」とつぶやきながら取り組む子もいます。それでも、その子が「考えたけど分からない」という本音を書けるようになったこと、そして何より、分からないから何もしないのではなく、じっと考えこんでいる姿に、その子にとっての大きな一歩を踏み出したと感じています。
こうした経験を重ねる中で、書くこと・考えることへの向き合い方が、それぞれに少しずつ変わっていく様子も見られます。「何か書くときは、これみたいに絵を描いてから文を書いている」と教えてくれた子もいました。 また、あらかじめ1か月分をまとめて配るときは、新しい冊子をワクワクしながら待っている子もいます。手に取ってすぐにパラパラとめくる姿を見ると、どんな反応が返ってくるのかこちらも楽しみになります。また、待ちきれずに先の日にちのトピックについて書き込んだり、実践者からの返事に続きを書いていたりする子どももいます。そんな書き込みを見つけることも、実践者にとっての楽しみの一つです。
「分からない」ということを表明
返事に対する返事
実践者からひとこと
この教材を使った実践で「書く」以外で特に好きな点は、普段の限られた時間の中では見えてこない子どもの姿が見えてくることと、一人一人に平等に意識を向けてコミュニケーションを図れることです。
子どもたちも、
「書く」ことを通して実践者とコミュニケーションを図れる点、何を書いても好意的な興味、共感をもって反応してくれるという点に
魅力を
感じているのではないかと
思っています。
ふとトピックを思いついた時は、同時に頭の中に子どもたちが思いうかび、彼らに語りかけ始め、それがそのままメッセージになることもよくあります。子どもたちからどんな反応が返ってくるのか、ワクワク、時にはニヤニヤしながら作ったメッセージを、子どもたちも実践者からのダイレクトなメッセージとして受け取ってくれています。そして、子どもたちに「今日は〇〇のことだけ、考えてみよう」と語りかけると、「〇〇のことなんて考えたことなかった!」「〇〇と□□って違うの!?」「よく考えたら分からなくなってきた」といろいろな気づきが出てきます。それをそのまま書く子もいれば、口頭で伝えて満足して別のことを書く子もいます。何を書(描)いてもOKだからこその、子どもたちの素直な反応だと思っています。中には数日経ってから「ずっと考えていたら夢にも出てきた」と言いに来ることもあります。
この実践には例文がありません。トピックもメッセージも無限に作り出すことができ、自由度が高いが故に利用を難しく感じることもあるかと思います。しかし、こちらが「まずは受け止めよう」と心がけ、一人ひとりとやり取りを重ねる中で、自由に好きなことを書くという一見すると高そうなハードルを、子どもたちは予想を超えて軽々と越えてくれました。意味がよく分からないときも、分からないなりに彼らの思うことを書いています。私たち実践する側も、自由度が高いからこそ子ども一人ひとりに応じたステップを踏み、強みや興味を引き出しながら、共に「書く」意欲を育んでいけるのではないでしょうか。
この実践が生まれた背景
この教材が生まれた理由――「書くこと」のハードルと向き合って
書くことは大変?
書くという
活動は、
子どもたちにとっては
大変な
作業で、
他の
技能と
比べてもその
習得・
伸長に
時間がかかります。そのため、
子どもたち
自身も
消極的・
否定的な
反応を
示すことが
少なくありません。だからこそ、
短いことばでいいので「
気軽に」「
毎日何かしらを
書く」を
積み
重ねることで、なるべく
負担なく
書く
力を
育てたい、そして、
実践者と
共に
学ぶ
時間を
離れた
後も
自立・
自律的に
学び
続けてほしいという
漠然とした
思いがありました。しかし、
一般的な
日記にすると
内容がマンネリ
化したり、こなすために
機械的に
出来事を
並べたりする
子ども、「〇〇のことを
書くのは
週2
回まで」のような
制限をかけると、とたんに
書くことに
困るという
子どもも
少なくありません。
市販教材との出合いと、子どもたちの姿から考えた「書くこと」の始め方
そんな
時に
出合ったのが
宮川俊彦著『1日ひとつのことだけ日記』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2007)でした。
子どもたちと
取り
組んでみると、
目を
引くイラストと
語りかけるようなメッセージ 、
毎日異なる
話題を
一点集中で
考える
形式が
子どもたちの
興味を
引きました。
子どもたちは「
今日は
何だろう」とワクワクしながら、
時に
考え
込みながら
取り
組んでいました。
日々の
取り
組みを
続ける
中で、
子どもたちの
中に「
書く」ことが
少しずつ
習慣として
根づき、
考えたり
身の
回りを
観察したりする
姿勢も
育っていきました。
書くことを
嫌がっていた
子どもたちから「
続けたい」という
声が
聞こえるようになり、
自由に
書くことを
楽しむ
姿が
見られるようになったのは
大きな
変化でした。
この
市販教材との
出合いと、
子どもたちが
変わっていく
様子を
見て、まずは
書くことへの
抵抗感を
減らし、
「書きたい」という気持ちを引き出すこと、そして自分の思いや考えを形にする経験を重ねること、さらにやめずに続けられる環境をつくることを
軸に
据えて、
今後の
取り
組みを
進めていこうと
考えるようになりました。
複言語環境の子どもたちに合わせた試み
子どもたちに
積極的な
姿が
見られる
一方で、
日本で
日本語に
囲まれ
日本語が
生活の
中心にある
子ども
向けに
出版されたものであるがゆえに、
載っている
語彙や
表現が
難しい、
背景知識の
有無に
左右されるということがしばしば
起きていました。また、ことばのバリエーション、
感情表現(
特にネガティブなもの)、
慣用的な
表現、
細かいニュアンスの
違い、オノマトペ、
他の
視点に
立つこと、
季節に
関連した
事柄など、
複言語のレパートリーとして
日本語を
学ぶ
子どもたちならではの
苦手なものも
見えてきました。
そこで、『1
日ひとつのことだけ
日記』のアイデアを
借りて、
目の前の子どもたちに合わせたトピックと、複言語の子どもたちの思考により届くであろう表現でのメッセージを
組み
立て
始めたのが、この
教材「
今日のトコトントコトン」です。
焦点を
絞ったトピック、メッセージ、
絵という
子どもたちが
気に
入っている
形式の
魅力に
学びながら、(その
時目の
前にいた)
子どもの
理解や
思考の
深まりがより
促されるよう、
・
必要に
応じてメッセージ
部分にトピックのことばそのものの
説明を
入れる
・「
少し
頑張れば
分かる」を
意識しながら
表現をかみ
砕く
ことにしました。とはいえ、
日々成長する
子どもや
異なるメンバーを
前に、
実践者も
試行錯誤を
繰り
返す
日々です。
この
実践を
通して、
書くことに
抵抗感をもつ
子どもたちに、
気軽に
書ける
機会を
定期的につくることで、「
書くって
実は
楽しいかも?」「ことばを
使えば
伝えることができる。ことばってすごい!」と
感じてもらえると
嬉しいです。そして、
小さな「
伝えたい!
書きたい!」「
書けた!」という
経験を
積み
重ねることで、「
書くことそのものへの
意欲」につながっていくことを
願っています。
作成者
中村シャンド清夏
ニュージーランド ウェリントンで各種日本語教育活動