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教材型3 生徒の「学びたい!」と親子のつながりを大切に:人権をテーマとして
子ども主体かつ生徒間・親子間のコミュニケーションが
活性化する授業を考えたい皆さんへ

キーワード
#中高生
#対話
#生徒主体
#家族とのコミュニケーション
#考えを深める

教材1分紹介
近い
将来、
成人となり
社会人となる
若い
人々に
人権について
知り、
考えてもらうことは
非常に
大切です。それは、
社会に
住む
人々が
皆平等で
同じ
権利を
持っていることを
再認識し、それを
実践できる
社会人になってもらうこととつながります。この
授業は、
海外に
住む
日本につながる
子どもたちが
日本語で
人権に
関する
話し
合いや
意見の
発表ができるようになることを
目標としています。
世界人権宣言30
条を
日本語とやさしい
日本語版を
読み
比べながら
学びます。さらに
現地語の
世界人権宣言も
参考にすることで
理解を
深められるように
配慮しています。
また、
私の
授業の
目的の
一つは、
生徒の
一人ひとりが
自身の
能力と
目的に
合った
日本語学習ができることであり、クラス
全員がお
互いに
助け
合って
一緒に
日本語を
学ぶ
環境を
作ることです。さらに、それぞれの
子どもたちが、
日本語を
学び、
住んでいるスイスという
国との
比較の
中でアイデンティティをしっかりと
身につけ、
自信を
持った
社会人として
生きていってほしいと
願っています。
単に
日本がいい、スイスがいいというだけではなく、スイスと
日本の
文化や
国民性など
様々な
点を
比較する
学習を
通して、
本当の
日本、
本当のスイスを
自分なりに
認識し、
多くの
人が
幸せと
思えるのはどのような
社会なのかを
考えられる
人になってもらえればと
思います。
もう
一つ、
海外に
住む
日本とつながる
子どもたちが
授業のテーマについて
家庭で
話し
合うことが、
日本語を
母語とする
親との
良いコミュニケーションの
機会になると
考えています。
様々な
状況下で
何回もテーマについて
話し
合うことは、
語彙の
定着にもなります。さらに、
日本語を
母語としない
親との
同じテーマによる
他の
言語での
話し
合いは、その
親とのつながりを
深めるだけでなく、
両方の
言語の
能力を
高めることになると
思います。そして、
何よりも
家庭の
構成員全員が
幸せになることを
常に
考えた
授業を
行っていきたいと
思っています。
この教材の特徴は?
• 生徒と教師が学習テーマを提案し合って決定
授業で取り上げるテーマは、クラス内で教師も含めて提案し合い、皆で話し合いながら決めていきます。その際には、それぞれの生徒が自由に自分の思うことを言えるように配慮しています。皆の意見が合わない時は、多数決ではなく、それぞれの生徒が納得するまで話し合った上で解決案を探し、決定していきます。自分たちで決めた「学びたい」テーマなので、学習への意欲も高まります。今回共有する「人権」は教師が提案したテーマでしたが、生徒たちが「やりたい」と選んだため、授業で取り組みました。
• 日本語のレベルの違いを、その他の言語資源や協働で克服
クラス内の生徒の日本語レベルは様々です。だからこそ、日本語以外の言語資源を活用したり、ペアやグループで分からないところを教えあったりしながら、それぞれの能力にあった学びが生まれるようにしています。そうすることで、生徒たちは日本語能力だけでお互いを判断することの無意味さや、ともに教え合うことの豊かさに気づいていきます。
• テーマの理解を対話で深める
ただ資料を読んで理解するだけでなく、それぞれの理解を共有し合い、対話をすることで、テーマについての理解を深めるような活動をデザインしています。
• 宿題が家族とのコミュニケーションを促進
この実践で出す宿題は、日本語を話す家族、また日本語を話さない家族との対話の機会を生み出す仕掛けとなっています。日本語を母語としない親との同じテーマによる他の言語での話し合いは、その親とのつながりを深めるだけでなく、両方の言語の能力を高めることになると思います。
どんな子ども?
| 年齢 |
13~18歳の中高生 |
| 人数 |
5~10人程度 |
| 経験・知識 |
- 特に、人権に関する詳細な知識を持つ必要はない
- 人権に必要な語彙知識を現地語で知っていると授業がしやすい
|
| 日本語力の目安 |
- 日本語能力試験N2ぐらいから(大体の目安として)
- ※ 私の現在のクラスの生徒は、N2とN1に受かっている生徒ですが、N3レベルの生徒がいても年齢的に大きな差がなければ、協働作業や、それぞれのレベルなりの学びを促すことで問題はないと考えます。
|
目標は?
| 目的 |
相手の意見を聞き、理解した上で自分の考えを発展させ、相手に伝える力を育む |
| 目標 |
- その人らしく幸せに生きる権利(人権)について、お互いの考えを理解し合い、自分の意見を発展させる
- 「理想的な社会」について意見を持ち、共有できる
|
言語面の 目標 |
- クラスメートと一緒に、日本語で書かれた人権に関する文章(「世界人権宣言」など)を読み、日本語で意見交換する
- 家族とお互いが理解できる言語で人権について意見交換する
- 世界人権宣言の中から条項を選び、調べたことや考えたこと、感じたことをクラスの中で日本語で発表する
|
主な活動と時間のめやす
【80分×4回】
1. テーマの
導入
2. 「
世界人権宣言」や
中学生の
人権作文を
読む
3.
世界人権宣言についての
発表準備
4.
発表とふり
返り
詳しいプランはこちら(■教案)
子どもたちの学びの記録の残し方
評価とポートフォリオ
バーゼル日本語学校小学部では、教師が学期を通して、生徒の残した作品などを集めておき、学期末に生徒に渡して、ポートフォリオのようなものを学びの記録として作成しています。中高学部では、生徒自身が自分の作品を集め、ポートフォリオを作成するよう指導し、学びの記録とさせています。また、授業では生徒自身の自己評価を中心に、他の生徒からのフィードバック、さらに親のコメントなども評価の一つと考えています。
全校生徒の作品を集めた文集
毎年、学期末には学校の全生徒の作品を掲載した文集を作成しています。毎年の成長が見える、良い記録となっています。
こんな子どもの姿が見られました!
今回の
授業実践では、
生徒たちがいつも
聞いている「
人権」ということばが
単に
人種差別や
男女平等の
権利などだけではなく、30
項目もあることに
驚きを
持って
読み
進んでいく
姿が
見られました。
著作権も
人権の
一つであることに
気づき、
日常の
生活に
人権が
深く
関わっていることを
学び、
興味を
持って
自分の
発表したい
項目を
決めている
姿がありました。
また、
日本の
中学生の
作文を
読んで、とても
身近に
感じた
生徒たちが
多かったと
思います。
授業中には
対話が
進み、
健康で
建設的な
意見が
飛び
交った
反面、
現在の
世界の
状況などを
見ると、すべての
人権が
守られている
社会は
少ないという
気づきもありました。
生徒たちは、ペアや3
名で
一つのことをするときは
大変楽しそうで、
話し
合いが
弾んでいました。また、この
授業では
毎回のように
人権に
関する
授業で
何を
学んだか、どんなことを
考えたかを
家族に
説明し、
家族と
人権について
話し
合うという
宿題がありました。
生徒たちは
家族に
人権に
関する
新しい
知識を
伝えるとともに、
日本語を
母語とする
親との
日本語での
会話、そしてドイツ
語を
母語とする
親(
全員が、スイス
人あるいはドイツ
人と
日本人の
両親を
持つ
家庭の
生徒でした)と
人権に
関して
学んだことを
話し
合いました。
宿題が、
家庭での
親子のコミュニケーションの
促進に
役立っていました。
自分の
身近なところにある
人権についても
理解することができ、
生徒全員が
人権を
守る
社会でなくてはいけないという
意見を
持ちました。この
人権に
関する
授業の
最後のフィードバックでは、
生徒たち
全員がこの
授業に
満足したことがわかりました。
※
生徒の
感想については、
■資料_生徒の感想文

をご
覧ください。
実践者からひとこと
中高生はまもなく大人の社会の一員となる生徒たちで、対話によって平和で平等な社会を構築できる人になってもらいたいと考えています。学習テーマはいつも生徒の提案や希望を受けて決めることが多いのですが、教師からも提案することがあり、そのときには「将来、どのような人に育ってもらいたいのか」を念頭に入れて提案しています。
この人権に関するテーマは私、教師の提案でした。スイス、バーゼルは外国籍住民(スイスの国籍を持たない住民)が36%と大変多く、さまざまな民族の人々が生活しています。そのような多民族文化のあるところでは、人権に関する学習は必須と思って提案したところ、生徒たちもやりたいと言い、この実践が生まれました。生徒たちは真剣にこのテーマについて学び、話し合いに臨み、自分の考えをまとめて発表してくれました。
人権について家族と話すという宿題を出したのですが、保護者からは次のようなコメントがありました。「宿題で、息子が日本語でどのようなことを学校で学んでいるかを話してくれて、主人も日本語学校でどのようなことを勉強しているのかを知り、大切な問題に関して家族で話し合う良い機会になりました。」家族とのコミュニケーションが増えることを願ってしていることなので、これはうれしいコメントでした。
生徒たちが一緒に楽しく学べるような授業を心がけていますが、そのためには、クラス全員がよく知り合うことが大切だと思います。そして、「誰ができるか?」などと他者と比較することは無意味であることをクラス全員に悟ってもらうことが大切だと思っています。
教材ダウンロード
【教案・資料(PDF)
】
【ワークシート(Word)
】
この実践が生まれた背景
1985年にバーゼルで、子どもたちに読み書きを教えたいと願う日本女性の有志により、バーゼル日本語学校が設立されました。私も創設者の一人で、当時、幼稚園生から小学2年生までの十数人を1クラスで教え始め、今に至っています。現在、バーゼル日本語学校では幼稚園から高校生まで100名近い生徒が9クラス、教師11名(アシスタント教師を含む)のもとで日本語を学んでいます。ほとんどの生徒たちは日本人との国際結婚によって生まれた子どもたちですが、両親が日本人の子どもたちもいます。
普段は現地校に通い、日本語を話す機会は日本語を話す親に限られる子どもたちへの日本語教育は、文部科学省が支援する日本人学校や日本語補習授業校で行われる「国語教育」ではないものが要求されます。バーゼル日本語学校に通う子どもたちは、様々な言語背景を持ち、様々な日本語能力を持った子どもたちで、家庭ではほとんどの子どもたちが二つ以上のことばを使って生活しています。
現在、私が教えている高校生のクラスにいるのは、幼稚園から毎週一回90分の授業を12年以上続けてきた生徒たちですが、家庭の言語環境や年齢差もあるので、それぞれの生徒の日本語能力は様々です。私は、そのような生徒たち全員が満足のできる授業とはどのようであるべきかという課題をいつも背負って授業を展開してきました。そして、現在は、この実践のように、学習のテーマは生徒が学びたいと思うものを話し合いながら決め、学習は生徒たちがそれぞれの持つ力を出し合い、対話したり協力したりしながら進めるような授業運営が、日本語レベルの異なる生徒のいるクラスにおいては効果的な方法だと思っています。ただ、授業のあり方というのは、時代とともに移り変わっていくものですから、今後、またさらに異なった授業のあり方が探索されることを期待するとともに、私自身も探索していきたいと考えています。
この実践の理念的な背景には、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages:Learning, teaching, assessment、以下CEFR)と呼ばれる複言語・複文化主義のもとに作成されたヨーロッパの外国語学習のための言語参照枠があります。CEFRは、日本では評価の枠組みとして考えられている傾向が強いように感じるのですが、本来のCEFRの目的はヨーロッパの平和のための言語政策です。スイスもこのCEFRを参照した外国語および第2、第3言語教育を行っています。よって、私の日本語教育もこのCEFRを参照した授業となっています。
作成者
フックス・清水美千代
バーゼル日本語学校教諭